今話題となっている活動として、「涙活」があります。
前回、名古屋の愛知県産業労働センターで行われた涙活講演会をまとめましたが 、今回は、大阪高校での生徒向け涙活イベントをまとめました。
※涙活とは、能動的に涙を流す(2〜3分間で十分だとされています)ことによって心をリラックスさせる活動。
なみだ先生こと感涙療法士の吉田英史先生は、中学や高校でも涙活イベントを実施している。
今回の対象は高校2年生。

まずは、映像鑑賞から始まります。
2〜3分から5,〜6分の短い映像が立て続けに流れます。
病のなか必死に生きる飼い猫の姿を描いたものや、
「お前は素晴らしいんだから」と小さいころから母から励まされることで成長していく息子の姿を描いたものなどさまざまな映像が流れます。

思わずハンカチを手にする生徒たち。

鑑賞後、吉田先生は生徒たちに「どの映像が一番泣けたか?」と尋ねましたが、その答えはばらばらでした。

「泣きのツボは人それぞれ」と吉田先生。
映像を見て涙を流す瞬間というのは、その映像にその人の人生経験が投影されるそうです。歩んでいる人生が一人ひとり違うことから、泣くジャンルも異なります。そのため、家族物 、動物物、恋愛物、アスリート物など、複数のジャンルの映像を流します。どこがその人の泣きのツボなのかを見つけてもらうというのが、この涙の授業の一つの狙いだそうです。
続いて、「涙作文」という取り組みを行いました。
生徒の皆さんに10分ぐらいで泣ける話を書いてもらいます。

書くだけでは終わりません。発表もしてもらいます。



発表中に泣き崩れる生徒も。
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「話を書くことで、自分のあり方を見つめられます」と吉田先生。
泣くという感情や、「なぜ人は泣くのか」について思いをめぐらせてもらうことで、自分と向き合うことになるのだそう。また、このワークは、生徒の表現力・発想力・伝達力・ 傾聴力が試される場にもなり、現場の先生にも好評だといわれています。
作文というと、なかなか生徒にはハードルが高いと思いきや、ここではすらすら書き出す生徒が大半だそうです。
その理由は、映像鑑賞で涙を流した直後にやるから。
泣いた後というのは人は本音を出しやすい心理状況になるため、どんどん言葉が出てくるのだとか。。
観た映像も書く題材の一つのヒントになっているようで、起承転結の筋が通った立派な文章も出てくるのだそうです。
また作文を書く効果の一つとして、「自身の泣きのツボを深めることができる」というメリットもあります。
人を感動させ泣かせるために、嫌が応 にも自分の泣きのツボが何なのかを考えることになります。
その結果、自分がどういう場面に弱いのかを知り、涙活習慣(後述します)に生かせるようになるということでした。
次に、吉田先生から涙についてのレクチャーが始まります。
その内容を箇条書きすると下記のようになります。
@ストレス解消の仕組み
涙を流すことで、自律神経が交感神経から副交感神経に切り替わりリラックスできるようになる
A3種類の涙の話
涙には3種類あります。
・ドライアイ防止や角膜保護のために常に分泌される「基礎分泌の涙」
・玉ねぎを刻んだ時や目にゴミが入った時に防御のために出る「反射の涙」
・悲しみや感動で流れる「情動の涙」
の3つです。です。
「基礎分泌の涙」と「反射の涙」には、ストレス解消の効果はありません。
ストレス解消に効果があるのは、今回生徒たちに流してもらったような「情動の涙」です。
「情動の涙」とは、コミュニケーションや共感を司り、脳の司令塔とも呼ばれる「前頭前野(別名:共感脳)」 に血流が増え、感情が高まることで流れる涙のことです。高まっているさまざまな感情を抑え、心身をリラックスさせる力が秘められています。
B涙活習慣
涙は1粒流すだけで、1週間もの間ストレス解消効果が持続します。
C健康教育の話
学校教育の現場では、生涯にわたり心身ともに健やかに過ごすことにつながる健康教育の推進が求められています。涙活体験は、生徒たちが自らの健康課題について認識し考え、その健康の保持・増進のために主体的に行動できる力を育むことを目的としています。
生徒たちから、「へ〜」という声が漏れます。

次に、泣き言セラピーというワークショップに。
涙の形をした水色の紙、通称「涙レター」に、匿名で泣き言(弱音や愚痴、不満など)を書き出してもらうというもの。
多感な時期の高校生たちですから、10秒ぐらいで書き上げる人もいました。


その後、吉田先生は涙レターを回収しにいきます。
お賽銭箱のような箱、通称「涙千箱」に、入れてもらいます。


そして、匿名の泣き言を読み上げていきます。
「勉強がつらい」「人間関係がうまくいかない」「部活で負けて悔しい思いをした」「女の子にふられた」など、
高校生ならではの泣き言が集まっていました。

聞いている高校生たちに「みんな同じような悩みで悩んでいるんだなあ」と共感してもらうことで、前向きになってもらうというのが泣き言セラピーの一つの狙いだということです。
吉田先生が代理して読み上げることで、読まれた生徒はカタルシスを得るのだそう。みんなに悩みを聞いてもらいたいという心の叫び、苦しさを吐き出すことで、人は前を向いて歩いていけます。
最後は、涙友タイムという時間。
「類が友を呼ぶ」ということわざの類を涙(るい)に変えて、「涙が友を呼ぶ」。
同じ泣きの空間を経験した者同士で、涙活体験を語ってもらいます。
7〜8人が輪になり、吉田先生がファシリテーター(集団で活動するとき、それがスムーズに、あるいは効果的に行えるように導く中立的な役割の人)として、各グループに入り、感想を共有してもらいます。




ワークでは「どこで泣けたか」をみんなで共有するのですが、なかにはなぜ泣いたかの理由を深刻に吐露する人も出てくるのだそう。泣きの空間を共有しているので、なんでも話せる雰囲気になり他の友人の知らない側面を垣間見ることもあるのです。そしてそれこそが、このワークの目的 でもあります。お互いに同じ思いを共有することで、お互いへの理解が深まり、承認しあえる関係を構築することにもつながります。
またここで他人の泣きのツボを知ることになり、それが自分自身の新しい泣きのツボの開拓にもなり、そのことがまた従来からの自身の泣きのツボを深めるきっかけにもなるのだそうです。
クロージングへ。

今回、大阪高校の先生からは次の4つの要望をもらったそうです。
その要望と吉田先生のアンサーをまとめます。
@新たなストレス発散の形を見つけられるようにしたい
→健康教育をからめて、随所で、健康の保持増進、メンタルヘルスについての話をします。
Aお互いに同じ思いをシェアすることで、承認しあえる関係を再構築させたい
→泣ける話の創作・発表や、涙友タイムのなかで、そういう関係性の深まりを体験してもらいます。
B非日常のワーク(涙活)と日常生活を結びつけていきたい
→「泣くこと」のリラックス効果を知り、自分自身の健康保持増進の意識を高めること、健やかな日常生活を送ることが可能となります。
Cさまざまな気持ちで迎えた二学期。このワークを使いながらスタートをきりたい
→生徒のあらたな一面を発見することにつながれば幸いです。涙を流す瞬間は、その人の大切にしている価値観が出ます。その価値観を生徒同士でシェアすることで新たな気づきが生まれ、これまでにない良い関係が育まれたら幸甚です。
日本全国の学校で涙の授業(涙活イベント)を実施する吉田先生。これからも活動は続いていきます。
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